2026年4月、Anthropicは「Claude Mythos」を一般公開しないと発表した。7週間で2,000件以上のゼロデイ脆弱性を発見したとされ、人類の年間脆弱性発見量の30%相当という数字が示されている。
この能力は「柔軟な知性」によるものなのか、それとも「訓練によって積み上げられたパターン認識」なのか。ネット上の議論を整理しながら、少し考えてみた。
「パターン認識寄り」という見方
現時点での実績を見ると、2026年のCVE登録数の増加は歴史的トレンドをやや上回る程度にとどまっている。AIがクレジットされたCVEは200件未満という調査結果もある(Barracuda Networks)。
脆弱性の多くはカテゴリとして確立されており、バッファオーバーフロー、競合状態、インジェクション系といった分類が存在する。これらは訓練データに大量に含まれているため、コードと既知パターンの照合はLLMが得意とする処理に近い。Mythosの強みは速度と網羅性にあり、人間が気づくような脆弱性を大規模なコードベースに対して一括で適用できる点が中心にあると思われる。
「ただのパターン認識ではない」という見方
一方、コンペ環境では脆弱性の77%を自律発見したという報告があり、これには人間が意図的に仕込んだもの以外の偶発的な脆弱性も含まれている(International AI Safety Report 2026)。また、GoogleはAI関与が疑われるゼロデイ攻撃の初事例を確認している。
専門家のBrian Gorencは「新しいLLMが出るたびに発見能力が改善している」と述べており、現時点では能力の上限がどこにあるかは見えていない。
「Jagged Frontier」という整理
業界では「Jagged Frontier(ギザギザの境界)」という言葉が使われている。AIは特定の狭い領域では人間を上回るが、全般的な知性として人間を超えているわけではない、という整理だ。
Mythosの場合、脆弱性発見という特定のタスクにおいては高い能力を示している。ただそれは、未知の問題を自ら設定し切り開いていく知性とは別の話だろう。大学入試でいえば、高得点を取る能力と、入試問題を設計する能力が別であるのと同じような関係に見える。
速度と非対称性の問題
Mythosをめぐる議論で気になるのは、「賢さ」より「速度と非対称性」の問題の方が実態に近いかもしれないという点だ。攻撃側がMythosのような能力を使えば、防御側の対応が追いつかない状況が生まれうる。
現時点ではまだ「発生するはずだった洪水」は来ていない。ただ、その非対称性をどう扱うかは、技術の問題というより社会の問題として残り続けそうだ。